毎朝、私が通勤する途中に、
見かけていた盲導犬。
交通量の多い交差点で、
いつも彼が信号待ちをしている時間、
私は、
「やっぱり盲導犬は凄いなぁ。
素質があるよねぇ。」
と思いながら、ニコニコと、
その横を車で通過します。
獣医と言えども、
盲導犬を見る事は、
なかなかありません。
それはとても印象的な、
それでいて毎日続く、
不思議な風景でした。
出会いは、突然やってきました。
ある日、そんな盲導犬の彼が、
ひょんな事から私の患者になりました。
盲導犬の管理は非常に厳しく、
月に一回の健康診断、爪の確認、
足裏の毛刈り、
肛門腺に予防関係に・・・・
とにかく、飼い主さんに危険が及ばないよう、
完璧な状況下で、
任務がこなせるように、
メンテナンスされています。
もちろん優秀な盲導犬。
爪切りでも自分から足を差し出すほどで、
全ての診察は、
非常にスムーズに進みます。
ところがある日、
彼の本当の姿を見ることになるのです。
それは、正確に体重を測ってみましょうか・・
と盲導犬の補助器具を、
全て外した時の事でした。
豹変した彼。
彼は一目散に、
病院を駆け巡りました。
そして、
病院内の看護士、
獣医一人ひとりに挨拶をするように、
じゃれて、グルグル回って、
伏せをしたと思いきや飛び掛ってきて、
また次の人間のところへ・・・
そう、これが彼の本当の姿だったのです。
本当は、人間と一緒に、
思い切り遊びたくて、走り回りたくて、
普通の犬としての暮らしに憧れを持っていた。
そんな彼に与えられた使命、
盲導犬。
長い間、
ずっと抑えていた感情だったのでしょう。
そんな彼の本当の姿を露(あらわ)にした原因、それは・・・
間違いなく、
彼に付けられていた補助器具でしょう。
それを付けている間、
彼は「プロ」なのです。
何があっても、飼い主さんを守り、
自分の使命を果たさなければなりません。
飼い主さんの
「いつもごめんなぁ・・ごめんなぁ・・
先生、少しだけ、
この子を自由にさせてあげても良いですか?」
と言う言葉が、重く心に残っています。
飼い主さんは、
きっとこの子の気持ちに、
ずっと気づいていたのでしょう。
信頼で結ばれた強い関係。
本当は遊びたいし走りたい・・・
けれども誇りを持って、
毎日仕事を続ける盲導犬に、
強く感銘を受ける事となりました。
それから・・・
今でも、毎朝彼の姿を、
交通量の多い交差点で見かけます。
しつこいですが、
「素質」などと安易な言葉で、
彼を評価していた私自身に、
今でも苛立ちを隠せません。
そんな簡単なものでは無いのです。
彼は毎月、病院に来た時だけ、
補助器具を外し、
ほんの数分だけ、
みんなに挨拶しに行く、
自由を与えられています。
私たちも精一杯、
彼と挨拶をします。
犬は本当に凄いです。
獣医になって良かったと思います。
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いつもプロ意識で
気を張っているので
とても開放的に、リラックスすることも
大切なんですね。